インタビュー

ゲームの世界から生まれる全方位を射程に入れた音楽

 

☆スーファミ音楽の決定版を作ろう

------すぎやま先生がゲーム音楽に関わったきっかけから話していただけますか?

すぎやま「僕は子どもの時から大のゲーム好きで、ゲームやりまくり人間だったんです。本業が音楽なので、インベーダーの頃からゲームについている音には関心があって、いつかやりたいと思ってました。それで、エニックスが出したゲームのアンケートハガキを書いて出したところ、エニックスの目にとまって、「ゲーム音楽をやりませんか?」と連絡が来た。それでやるようになったんですけど、そういうきっかけがなかったとしても、たぶんなんらかの形でゲーム音楽をやるようになっていたと思います。だけど、たまさかエニックスとの関係ができて、ゲームの中でもいちばんいい“ドラゴンクエスト”というものにブチ当たったというのは運が強いなとは思います。」

------ゲーム音楽は最終的にROMに仕上げますから、ふつうの音楽製作とは違う部分が出てきますよね。そこらへんで気をつけた点は?

すぎやま「ドラクエをやる前にパソコンのゲーム音楽を1本やったんです。その時に、音楽のプログラムを入れる人、いわゆるプログラマーが非常にだいじだと思ったんですね。これは作曲家と演奏家の関係と同じだなぁ、と。だから、どういうふうに演奏してもらうかということが作品としてとても大切だということを感じました。作曲と演奏との両輪で成り立つものだということがわかったので、それ以後、譜面を届けてほっぽりぱなしというのはいかんと、最後の仕上げまで携わって、プログラマーといっしょにいい音楽を作っていくという協力体制を作る必要性を感じましたよ。」

------今回、プログラマーとのコミュニケーションはどんな感じだったんですか?

すぎやま「ドラゴンクエスト6は“これがスーパーファミコンの音楽の決定版”というものを作ろうという意欲に燃えていたので、すごく贅沢ですけど、多和田さん、崎元さんという作曲家として才能があって活躍している人をミュージック・プログラマーとして迎えた。それで、スーパーファミコンというハードは、ある一部分はシンセザイザーと同じしくみを持っている。だから、そこをいかにうまく鳴らすかということでチームを組んだわけですが、そのチームの音楽的要求を実現するためには、それなりのサウンド・ドライバー(としてのプログラム)が必要だということになったわけです。それが5とは大幅に違うところです。」

------5製作時にはなかった技術的な進歩による変化はありますか?

すぎやま「使っているサウンド・ドライバーが全然違うので音の強弱も明確にできたし、スタジオ録音のようなエコーがつけることができた。それに、スーパーファミコンのゲームでリバーブ・エコーまでできているものって、ほとんどないでしょう。エコーですら、ほとんどないよね。」

 

☆アンサンブルにした時、いかにオーケストラの音になるか

------ところですぎやま先生がドラゴンクエストの音楽を作る時に、イメージの下敷きにしている種類の音楽というのはありますか?

すぎやま「全音楽です。それこそバロック音楽から現代音楽に至るまで、あらゆる種類のもの。あらゆる国の全古典から、ロック、ジャズ、端唄、小唄、長唄、雅楽まで(笑)。すべて視野に入れてやってます。」

------ファミコンからスーパーファミコンに移行したことで、音を鳴らす環境が大きく変わりましたよね。それはどの程度重視なさってますか?

すぎやま「それはかなり重要ですよね。ホルンの音はよりホルンらしく、トランペットの音はよりトランペットらしく、で、その“らしい”というだけじゃダメなんです。いい音、きれいな音じゃないと。たとえばオーボエの音は、誰が聴いても“これはオーボエの音だな”という単なる音だと、チャルメラっぽい、非音楽的な下品な 音になっちゃう。そうじゃなくて、品のいい美しいオーボエの音をずいぶん追求した。ストリングスの音でも、いわゆるストリングスに聞こえればいいというのではなくて、数あるストリングスの音でも、きれいないいストリングスの音を選びました。世の中、“これはストリングス系の音”これは“ブラス系の音”というところで止まっちゃってますよ。」

------ROM容量との戦いも出てきそうですね。

すぎやま「ほかのメーカーのサウンド・プログラマーが今回の音を聴いて、音のメモリに4メガ以上使っていると思ったらしいのね。だけど、2メガ弱しか使ってないんですよ。それですごく驚いたらしい。「MOTHER2」なんか8メガ使ってるからね。通常、ビッグタイトルのRPGだと4メガくらい使っているものなんだけど。」

------音の元は具体的に言うと?

すぎやま「もう、いろんなシンセザイザーからサンプリングしたり、CD−ROMから引っぱってきたり、それを混ぜたり・・・。弦の音なんかは多和田くんのスタジオに僕が行って、ああでもない、こうでもないと(笑)。サンプリング取って、ちょんぎって、これは違うとかやったあげく、最後で全部差し替えとかいうすごいこともしました(笑)。彼らが何十時間もかけて作ったものを「ここが違うから直せ」というのは、相当言いづらいというか“悪いな”と思いながら、ここでそんなことを我慢しちゃなんにもならないとワガママ放題言わせてもらってね(笑)。
 それともうひとつ。楽器の音色で言えば、楽曲のフレーズもだいじなの。たとえばドラゴンクエスト1が出た時、ファミコンのPSGのチープな音色だったけど、オープニングのテーマ曲が聞こえるとホルンに聞こえる。それはなぜかというと、あのフレーズがホルンでやるといちばん似合う典型的なフレーズだから。ホルンらしい音形だから、ファミコンの音色でやってもホルンに聞こえるんだね。だから、いい楽曲、いいフレーズを作ることが、まずだいじなの。」

------今おっしゃったようなことはクラシックの素養がないとわからないですよね

すぎやま「素養というか、感性ね。クラシック音楽に対する感性がないとダメなの。」

------容量の問題とともに、発音数との戦いといった部分もありましたか?

すぎやま「そうならないように、僕はスーパーファミコンの音楽のスコアを書く時に、常に計算しているんですよ。6個以上の音が同時にならないようにスコアを組みます。ですから、4段か5段のスコアで、絶対8トラック全部は書かない。」

------5トラック内で必要な音を書けるというのは、すぎやま先生のアレンジャーとしての能力があってこそのことですよね。

すぎやま「だけど5トラックで書けるというのは、ファミコンに比べれば天国ですよ。3トラックだったのが2トラックも増えたと、こう思えばいいんであって(笑)。」

 

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