すぎやまこういちさんに聞く、ゲーム音楽成功の極意

「音楽としての本質的な力が必要なんですよ」

 

 

☆キャラクターの動きに音が対応

------CDにはオーケストラによる演奏が収録されていますが、ゲームの中に入っている音楽はそうではないわけですよね?

すぎやま「ええ、それはもう当然違います。1995年に発売されたドラゴンクエスト6は、究極のスーファミ・サウンドを作ったつもりだったんですけど、それでもまだ音のバランス上など、いくつか反省点があって、3ではそれをさらに改良しました。
 曲自体のバランスは取れていたんですが、細かい部分で曲相互の音のバランスとか、音の大小とかに不満が残って、それで今度は横並びのバランスに相当気を使いました。例えば、フィールドの音楽に比べて戦闘の音楽の方がちょっと大きいとかね。
 ほこらに入ると、ちょっと安心した感じを出すために少し音量を抑え気味にするとか。
 それから、街によってはステージがあって、音楽が鳴っていて踊り子が踊っている。その劇場に入るとドーンと音が大きくなって、楽屋に行くと音が下がる。劇場から出ると、さらに音が小さくなるんだけど、劇場から離れる距離にしたがってだんだんと音が小さくなっていくんですよ。音源とゲーム・キャラクターのいる距離をベロシティに換算する機能を作ったわけです。
 ゲームをプレイしてみれば、そのすごさを感じると思います。」

 

------ドラクエ6の時に、すぎやま先生は「スーパーファミコンの音源でも、より生に近い形にしたかった。」とおっしゃってましたが、今回、そういった部分で改善なさった点は?

すぎやま「ス−ファミに限らず、どんなすごいシンセザイザーを使って音を作っても、生のようにはいかないですよ。細かい演奏のニュアンスという点で。でも、少しでも近づけるために、今度の3の場合は実際に僕がオーケストラの指揮棒を振ってる気持ちでスーファミの音を出したつもりです。
 つまり、一小節ごとのテンポとか音量とかを微妙にきめ細かく調整して作ったわけです。」

 

------それは数値設定でということですか?

すぎやま「はい。でも、それはまったく感覚的な問題で、音楽に対するハートをスーファミでどう出すかという勝負です。僕とサウンド・プログラマーとの共同作業です。マスター・アップの前の晩まで「ああでもない、こうでもない」と粘ってましたね(笑)。」

 

------具体的に6の時よりも、すぎやま先生の理想に近づいた部分というのは?

すぎやま「楽器の音色というよりは、さっき言ったような音楽の横並びのバランスとか、音楽の歌い方といった部分ですね。ひとつのフレーズでも、リタルダンドの強弱でずいぶん印象が変わってきますから。」

 

------技術的な部分の進歩というのは?

すぎやま「僕はプログラムにはそんなに強くないし、テクノロジーのほうの技術屋じゃないからそっちのことはよくわからないですね。ただ、機械好きの人に言いたいのは、機械はあくまでも音楽をするための道具であって、元の音楽を忘れないでほしいということです。それは強く言いたい。
 オーディオ・マニアの本の中に本末転倒な人がいるように、音楽を愛するよりも楽器や機材に凝る人もいますからね。」

 

 

☆音楽は作曲だけでは成り立たない

 

-------以前、「スーファミ自体が小さなシンセだ」とおっしゃってましたよね。ただ、音が出てくる部分が大半の場合はテレビについているスピーカーなわけですが、そこらへんはどのように考えて音を作ってるんですか?

すぎやま「それが非常に難しくて。昔のファミコン時代は、ファミコンというハード自体が音域も狭かったんですね。あまり低い音が出なくて、低音部符号の下のGがギリギリで。でも、あの当時にファミコンにつないで使われていたテレビというのは、小さくて音もモノラルだったので、ある種の釣り合いがとれてた。
 今スーファミや次世代機を使っている人は、もっと新しいテレビにつないでいる。今のテレビのハード自体は絵のほうの競争は行き着いていて、オーディオの機能を充実させようとしているでしょ。でも、オーディオ的にいい音というよりは、ブースターをつけて低音が出るという方向だけど(笑)。
 そんなふうに、周波性特性がフラットではなくて低音域が持ち上がっている機械が多かったりする。それでも一方では、低音域の再生能力が劣った機械で遊んでいる人が大部分という事実もあって、その点は非常に悩みますね。でも周波性特性的には、ある程度フラットなものを目指して音作りをしようと思いました。それで音楽のほうはなんとかうまくいったんですけど、SEとかは使うテレビによって、かなり聞こえ方が違ってくるので・・。」

 

------単に作曲をなさっているだけではなく、全体的なことを考えていらっしゃるんですね。

すぎやま「音楽というのは作曲だけでは成り立たないですよね。作曲と演奏が車の両輪なわけで。バイオリンでいうとさ、音を出す糸と弓がスーファミ本体っで、それを響かせる胴と裏板に当たる部分がテレビ・セットみたいなもので、それが全部合わさって音になって出てくるわけでしょ。だから、スーファミからどういう信号になって出ていくかっていうところまでは、直接、僕らスタッフが管理できる部分ですよね。」

 

 

☆3の音楽は古典派、バロック的な世界

 

------ドラゴンクエストの音楽はまずメロディが素晴らしいですけど、ゲーム音楽としても好きなんです。ほかのRPGをやっていると、音楽の良し悪しとは別に、ゲームにマッチしてないと感じる場合も多くて、そういう差はどういうところから生まれるんでしょう?

すぎやま「僕自身、もともとゲーム好きで、ドラクエに携わる前からゲームにハマっていたんです。だから、自分がやって楽しくないとイヤなのね(笑)。自分がドラクエを遊んで一番気持ちがいいように音楽を作ろうと思うからね。ある種、僕はユーザーの代表みたいな部分があるから。」

 

------RPGではフィールドを歩く時の音楽が、一番繰り返し聞くことになりますよね。そのフィールドの音楽の在り方や作曲の方法論はありますか?

すぎやま「回数を多く聴くのは、フィールドと街と戦闘の音楽ですよね。3つは、あまりしつこくない音楽がいいね。かつ、音楽としての本質的な魅力がないとダメ。ド派手な音色とかサウンドとか、こけおどしでお客をつかむのは避けるわけですから、地味でかつ魅力的ということになる。それは音楽としての本質的な力が問われる部分ですから。曲を作るのに時間はかけますね。」

 

------ところで、ファミコン時代のチープな音色も捨てがたいものがあると思うのですが、ああいう感覚をもう一度どこかに取り入れる考えはありませんか?

すぎやま「僕はそういう感覚がドラクエの音楽には残っていると思う。
 ファミコンの時は基本的に3トラックだったんだけど、サウンド・エフェクトが割り込んでくると1トラック取られて2トラックになっちゃう。ですから、ドラクエ1の時はほとんど2トラックで書いてるんです。
 その後、4まではファミコンで作っていたんですが、自分でテスト・プレイして音色を少しはいじれるわけです。疲れる音色は音を丸くしたりしてたし。で、スーファミから次世代機になって、そういう雰囲気を失っているというのは、これだけトラックを使えるぞってことで、みなさんベッタリ分厚く書いてるからじゃないかな。全トラックがほとんど全部鳴りっぱなし、みたいな。
 料理でいうと、初めから終わりまで油っぽいものばっかりって感じ。これはたまらんですよ。
 ドラクエは6でも、今回の3でも、最大6トラック鳴ってることもあるし、1トラックしか鳴ってないところもあるし・・・だからドラクエの音楽は音の厚い薄いの変化が随分あります。」

 

------ドラクエ3は、ゲームとしても音楽としても、シリーズ中一番素晴らしいという人が多いですよね。

すぎやま「ドラクエ・シリーズの中でも最高傑作のひとつじゃないですか?」

 

------その3の音楽的特徴や方向性は、どのようなものなんでしょう?

すぎやま「3を作った時に念願に置いたのは・・・3は1と2とつながっているロトのシリーズですよね。2は1の100年後の世界で、3は1の100年前という設定でしたでしょ。だから、ドラクエ1〜3の中では、一番クラシック寄りの音楽の作り方をしました。クラシック音楽でも、いろいろなものがあるでしょ?
 ドラクエ3の場合は古典派、ベートーベン、それ以前のバロック時代・・そういった、クラシック音楽の中でも古い時代の音楽の言葉で書こうとした部分が随分ありますね。例えば「王宮のロンド」なんかは完全にバロック音楽の合法で書いているものだし。」

 

------ドラクエのコンサートに行くたびに、日本の音楽教育は間違っていると思うんです。こういう感動をどうして授業で与えられないのか、と。小学校の時にレコードで聴かされたクラシック音楽は退屈なだけだったから。

すぎやま「そうねぇ。生徒に対するプレゼンテーションの仕方が下手なんですよね。たぶん、聴かせた音楽はみんな名曲だと思う。それと生徒のほうも、音楽の時間に一生懸命勉強しようとしない。入学試験に出ないから。だから、国立大学が音楽も美術も試験科目に入れたら、世の中ボーンと変わると思うよ。でも、そうなると、音楽も単なる暗記物になっちゃったりしてね(笑)。」

 

 

☆金管楽器は2種類の音を使っている

 

------今回、音楽面での変化は?

すぎやま「スーファミ版ドラクエ3は、すべてのスタッフが、ファミコン版オリジナル・ストーリーにある程度のっとったニュー・ゲームを作るという取り組み方をしたんですよ。だから、ほとんど「ドラゴンクエスト7」と言ってもいいような内容になってます。ですから、曲を作る側としてもそういう意識で参加しているので、ファミコン版のドラクエ3の曲も全部新しい音源で再現しているけど、新曲も随分書いてます。ファミコン版になかったものも随分あるので、そのための曲も書いたし、戦闘のための新しい音楽もあるし。
 もうひとつ大きな変化は・・・ファミコン版の時から夜と昼の時間経過がありましたよね。今回は昼と夜で音楽が変わります。」

 

------そうなんですか。でも、それって容量的にかなり食うんじゃないですか?

すぎやま「うちのチームは無駄使いしませんから、非常にコンパクトにうまくまとめて、SEを含めて音の容量は2メガいってませんよ。」

 

------最近のゲーム音楽は、6メガとか8メガが常識ですよね。

すぎやま「そうだけど、それはやり方が悪い(笑)。今度だいぶ曲数が増えましたけど、それでもできるだけ曲数をしぼるようにしてるし、音色の種類も野放図に増えないようにしてます。そのかわり、使う音色は絶対にいいものにしてます。それから、音楽を歌わせるために、譜面データはかなり贅沢に使ってます。ゲームによっては「80曲入ってます」とかいうのがあるけど、僕に言わせれば、それはプロデューサーに物事を整理する能力がない。そういう無駄がないから、2メガ以内に収まるわけですよ。」

 

------音色はこの手のものを多く使ったとかいう傾向はありました?

すぎやま「やっぱりドラクエシリーズはオーケストラサウンドの音色が多いですよね。」

 

------金管楽器の音って微妙ですよね。

すぎやま「たとえばトランペットには2種類あるんですよ。ポップス・・・ジャズやブラス・ロックのトランペットは鋭い音で、ハイ・トーンを出すために小さなマウスピースを使っている。
 クラシック系のトランペットというのは大きなマウスピースを使って、豊かで暖かくて幅のある音色を出す。同じトランペットでありながら、随分音が違うんです。
 それで日本で出ているシンセザイザーに搭載されているトランペットの音というのは、全部ジャズ/ロック系の音なんです。だから、その音色でコードを刻んだりするのにはいいんですけど、メロディに使うと全然トランペットの音にならないのね。だから、スーファミは何かの音源を見つけてきてサンプリングするわけですけど、そのサンプリングの元探しが大変で、だから、日本の音源はクラシック系のトランペットの音には使えないですね。
 で、世の中のゲームに使っているトランペットの音は、全部がジャズ/ロック系のトランペットの音です。ドラクエの場合は両方使っているんですよ。アタックの必要があるからジャズ/ロック系の音も作るし、クラシックの丸い音も必要。その丸い音は外国のシンセザイザーから取り出してサンプリングして、それをスーファミに乗せた時に気持ちいいように、波形をいろいろ細工したり、エンベロープを調整するわけです。そういったことは、すべての楽器において言えることですね。」